CHRISKING "ARD44" ホイールの紹介&感想
クリスキングが独自のホイールセットの販売を始めたことはまだ記憶に新しいところ。
初めて知った時は「どうせENVEの方がいいんじゃないの?」と思ったりもしたのだけれど、ちゃんと説明を読んでいくと、どうやら少し様子が違うぞと気づかされました。
Chris King Precision Components
クリスキングは"商品が売れればヨシ"とはしない会社であり、「Chris Kingのパーツは使い捨てではない」と語ります。高品質でありながら、メンテナンスがしやすい設計はパーツの寿命を延ばしてくれます。
市場にはメンテナンスを前提としないパーツも多く溢れていますが、クリスキングは何事も妥協せず製品を生み出しています。
・環境に配慮した方法で高品質なバイシクルパーツを生産すること
・人々の生活並びにコンペティションを支え、そのパーツが捨てられずに長く使われること
メンテナンスをすることでパーツが長持ちするということは、ゴミが減るということ。金属の塊から削り出して作られるパーツからも、削りカスは大量に発生します。そういった製造時の金属の破片は素材ごとに小さく圧縮し、体積を小さくすることで輸送回数も抑えながらリサイクルへと進みます。そういった輸送時に使用されるガソリンなどまで考慮していることは素直にすごいなと思えます。
Fusion Fiber®
今回のクリスキングホイールセットには聞きなれない「フュージョンファイバー」と呼ばれる素材が使用されています。
アメリカ、ユタ州に拠点を置くCSS社をパートナーとして迎え入れ、FusionFiber® テクノロジーを用いて実現したクリスキングのオリジナルリムの構成の中心となる『長鎖高分子繊維』は、衝撃に対する耐久性が非常に高く、振動減衰性も向上するという特徴を持っています。
Fusion Fiber® は一般的なカーボンファイバーリムとは大きく異なり、エポキシ樹脂で接着成形されていないため、優れたダンピング特性(振動吸収性能)を発揮します。
成形においてはエポキシ樹脂ではなくナイロンを使用しているため、最適な強度が得られ、これまで市場で製造されてきたどのカーボンロードホイールよりも、トラクションが高く維持されるので、とてもスムーズな乗り心地を実現しています。
もう一つの大きな特徴はリサイクルが可能ということです。
もし何らかの原因でカーボンリムが使用不能になったとしてもリム自体を細かく裁断しチップ化、加熱して他の製品を作るために再利用することができます。
また自転車のホイールリムのような複雑な形状にカーボンを成形するのに必要な時間やエネルギーも大幅に削減でき、廃棄物も少なくなります。
"ARD44"
クリスキングホイールにはMTN30、GRD23といった他のラインナップもありますが、名前でイメージが用途は伝わってくるかと。
その中でARD44はクリスキングが考えるロードホイールを具現化したものになります。ロードとは言うものの、完璧なピュアロードレーシングというよりは、AR=オールロードなホイールです。
タイヤの適応サイズは28~47cとなっていて、25cは対応外。エアロプロファイルとして最近のトレンドとも言える28-30が主なターゲットとなっています。
最大47cまで対応しているのでグラベル用途でも使うことができ、近年のロード/グラベルのミックスされた遊び方にドンピシャな仕様です。
CERVELOやTIMEのカーボンフレームにクリスキングのホイールを履かせているというのが良いですよね。
使ってみての感想
カタログ重量で1,525gというホイールは、僕の基準で言うと軽量なホイールとは言えない。漕ぎだしの軽さ、上り坂での軽快さを求めるのであればENVEの2.3や3.4に軍配があがる。リム単体は435gというカタログ重量だけれど、体感としては少なくとも460gはあるような気がしているので、そのうち機会があればバラして計ってみたい。(もし435gだったらゴメンナサイ、自分の脚力不足です)
いきなり批判的なコメントになったが、軽量なENVEやフルクラム、MAVICでもなくARD44を選んだことは、重さで選んだわけではないからに他ならない。
今の自分のロードサイクリングの楽しみ方は昔ほどガツガツしていなくて、辛くないペースで気持ち良くスピードを出すような感じで楽しんでいる。
そんな今の自分にとって、普通のカーボン以上に振動吸収性能が高いと言われるフュージョンファイバーには興味をそそられたし、CHRISKINGのハブは一生愛せるスムースさがある。そして何よりカッコいいと思えた第一印象。
ベアリングはステンレスとセラミックの2種類が用意されていて、僕は迷わずセラミック。誰が何と言おうと、自分が楽に気持ち良く走れると感じているのだからそれでいい。「気持ち良く走る」が僕の新しいロードバイクのコンセプトだから、そこに嵌ってくれると思えたのが"ARD44"だった。
漕ぎだしは超軽量ホイールと比べると少しまったりと進み始める。けれど違いはそこからで、軽いホイールというのは慣性も弱いのでスピードの伸びはそれほどよくない。
ARD44はというと、クリスキングハブの滑らかな回転と共に、イメージ通り気持ち良く伸びてくれた。信号のない淡々と走れるシチュエーションでは、頑張っていなくてもじわりじわりと、自然と自転車が加速していくような感触を味わうことができた。
スピードを出す中で、道には細かい段差や小石など無数の振動発生源が存在している。それを認識していてもいなくても大差はないと思うのだけれど、わずかでも自転車に与えられる衝撃はスピードを減速させる要因であり、サスペンションはそれの発生を抑えてくれるシステムだったりする。
でも普通、ロードバイクにサスペンションは無い。微細な振動を感じさせないのはホイールだけのおかげとは言い切れないのだけれど、以前乗っていたロードよりも、路面の上を滑るように、なめらかに進んでいる感触だった。
「気持ちいい。もっと走っていたい!」
ロードバイクを走らせながら、素直にそう楽しめるホイールだなと思えた。
もし「レースみたいにハイテンポで走りたいんです!」という人が居れば、やっぱりENVEの硬さや軽さが魅力的なのでそっちをオススメするのだけど、ホイールも40万円、50万円と高価になってきているし、迷う人も多いはず。
他にも魅力的なホイールはたくさんある。その中で、僕はクリスキングなら少なくとも10年は連れ添えると思えるから迷わず注文ができました。
企業理念、妥協しないモノづくり、メンテナンス性、補修部品のラインナップ、そして実際に使ってみて気持ちよく使えること。
全部引っくるめて愛着が持てるホイール。
喜びがある。そう思いました。